アラミス元いロシュフォールの十字架のネックレス。
これは物語後半を大きく盛り上げるキーアイテムとなった。
ロシュフォールはセンスが良い。
なんて美しい細工だろうか。
黒い十字架にはカボッションカットされたガーネット。
ゴールドの百合の紋章は円形に配置され太陽を模し、円周に埋め込まれたシードパールがより華やかさを増している。
ガーネットとシードパールは相性が良い。
アンティークモチーフの中でも人気の組み合わせだ。
(自分は地味なロザリオをつけている)
王妃のために作られた願いの込められた十字架。
ガーネットは十字軍の兵士たちもつけていたお守りの石だ。
変わらぬ愛や忍耐強さを与える宝石。
そして太陽と百合の紋章。
百合はフランスを指し、太陽は不滅の象徴となる。
全てを照らし、その温もりで命を育み、活かす絶対的存在。
聖なる光を放つ百合の紋。
ロシュフォールを照らす光。
それは王妃なのだ。
さて、ロシュフォールを狂気へと走らせた元凶。
色男アラミスと十字架のネックレス。
王妃からの賜り物は今や恋人の証だ。
「つけてるのね」
「いつもです」
負傷しながらも囚われた王妃を颯爽と救い出すアラミス。
王太子の世話係マルグリットが後に証言したように、その様子はまさに恋人同士。
だがアラミスの首にかかるその十字架は、ロシュフォールが王妃へ贈った愛の証。
悪役ロシュフォール。
この人はスペインのスパイとして王妃を利用し、国を奪うことを目的としているのだと思っていた。
だがそうではないことは、この十字架と死に間際の台詞が表わしていた。
「肌身離さずつけるといったのに」
アラミスの胸元に見つけてしまった愛の十字架。
王妃の不義。
それは国王へのものではなく、ロシュフォールへの裏切り。
疑心が確信となり愛は狂気へと変わる。
スペインでの獄中5年と日々の拷問を、王妃への想いを以って耐え、パリに戻っては宰相にまで伸し上がり、国と王妃を手に入れようとした男。
「俺への気持ちは変わっていない」
「いつか俺のものになる」
「俺の女だ」
幼すぎる独り善がりで勝手な思い込み。
でもそれはロシュフォールの信念だった。
ロシュフォールを破滅へと追い込んだのは嫉妬が生んだ憎悪。
強い思いは形を変え悪感情へと傾き、増大する。
憎しみを生きるエネルギーに変えてしまった男の哀しき末路。
「スペインのためにやったんじゃない」
死の間際、愛の返礼として潰された左目を見開き、愛する人を見上げるロシュフォール。
「孤独だ」
最後まで欲していたものは、信じてきた愛。
狂気の男、ロシュフォールが哀しく映るのはこれだろう。
一人の女に一途なのは見事だが、それが執着に変わってしまうとその身を滅ぼすことになる。
執着は利己愛だ。
ロシュフォールが愛されるはずはない。
物語のキーアイテムとなったアラミス元いロシュフォールの十字架のネックレス。
今もアラミスの胸元に。
美しいだけに、切ない。
そして・・・。
パールのシャンデリアタイプのピアスとロングパールが素敵な王妃。
罪な人。
ジュエリーのモチーフには意味がある。
男の想いを、込められた意味を侮ってはいけない。